サトシ・ナカモトとは何者か

ビットコインの発明者の正体は暗号資産史上最大の謎

An anonymous digital face

2009年1月3日、18時15分05秒(UTC)頃、サトシ・ナカモトが最初のビットコインを採掘しました。サトシ・ナカモトのビットコインの発明は、アレキサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したことに匹敵する、歴史的な大発明です。ビットコインの発明者であるサトシ・ナカモトは、ビットコインの採掘の2カ月前に、暗号技術に夢中になっているコンピュータ科学者やハッカーたちの小さなオンラインコミュニティに、この発明を公開していました。この界隈では、サトシ・ナカモトの名前はすでによく知られていましたが、その正体は不明でした。

その人物は、世間がビットコインの話題を耳にする何年も前から、サトシ・ナカモトというペンネームを使って掲示板に投稿したり、開発者仲間にメールを送ったりしていましたが、場所も国籍も本名さえも明らかにしていませんでした。

サトシ・ナカモトは、ビットコインを公開し、普及するのを見届けた後、2011年4月に友人の開発者に「私は別のことをすることにした。」というメールを送り、どこかに消えてしまいました。

サトシ・ナカモトがビットコインについて語ったこと

ビットコインの生みの親の正体は、現代最大のミステリーのひとつです。サトシ・ナカモトとは何者か。なぜその名前なのか。そして、サトシ・ナカモトはどこへ行ったのか。サトシ・ナカモトは、1兆ドル以上の時価総額(執筆当時)の新しい貨幣を発明しただけでなく、100万ビットコイン以上を保有していると広く信じられており、2021年3月当時、その価値は、数百億ドルでした。

(注:この記事の原文(英語)では、サトシ・ナカモトを「彼」と表記していますが、これは当時サトシ・ナカモトがコミュニケーションをとっていた人々が、ビットコインの生みの親は若い男性だと考えていたからです。もちろん、サトシ・ナカモトの性別は不明です。ビットコインの発明者が単独で活動していたのかどうかという点も分かっていないことの1つです。専門家の中には、サトシ・ナカモトは複数の開発者のグループであると推測している人もいます。)

サトシ・ナカモトが手がかりを残しているとすれば、それは暗号資産の発明者である本人が、2008年から2011年の間に書いたコードやメ主張の中にあると言われています。2009年にサトシ・ナカモトが開設したBitcoinTalkというフォーラムへの投稿を中心とした、彼の投稿や主張が、現在でも聖典のようにアーカイブされています。この時点で、何百万人もの人々がサトシ・ナカモトの言葉に目を通していますが、当初は、「暗号メーリングリスト」のメンバーである、安全な通信技術に関する発明の専門家である、数十人のプログラマーのみが、知っていたことでした。このメーリングリストには、「サイファーパンク」と呼ばれる、社会や政治に変化をもたらすために暗号資産を利用することを提唱する人々が、多く追加されていました。

サトシ・ナカモトは、2007年の春、プログラミング言語C++を使ってビットコインの最初のバージョンのコーディングを始めたと語っています。2008年には、b-moneyやHashcashなどの暗号通貨を開発した暗号技術者仲間とアイデアを共有し、すぐにCryptography Mailing Listでアイデアを共有しました。

ビットコインが発表された当初は、あまり真剣に捉えられなかったようです。「サトシ・ナカモトが暗号学のメーリングリストでビットコインを発表したとき、懐疑的な反応しか得られなかった。」と、サトシ・ナカモトから初めてビットコインを受け取った、伝説の暗号学者、ハル・フィニーは振り返ります。「暗号技術者たちは、業界を深く理解していない素人たちが、様々な構想を発表し、失敗してきた過去を沢山見てきたので、サトシ・ナカモトの言うことを、当初はあまり真面目に捉えていませんでした。」

そして、2008年10月にサトシ・ナカモトが発表したビットコインの仕組みをまとめたホワイトペーパーも、世界を変えようとする発明と感じさせない程、控えめな表現でした。ホワイトペーパーには、「私は、信頼できる第三者が存在しない、完全なピア・ツー・ピアの新しい電子通貨システムに取り組んできました。」と淡々と書かれています。

しかし、この9ページの方程式で埋め尽くされた論説は、長年にわたってサイファーパンク界を悩ませてきた難問への解決策を提示していました。それまでのデジタルマネーは、サトシ・ナカモトが「二重支出問題」と呼んでいた問題を解決していませんでした。

2000年代初頭に子供たちがナップスターでエミネムのmp3を無限に共有したように、物理的な形を持たない通貨が他のコンピューターファイルのように複製され、何度も使われるのを防ぐにはどうすればいいのでしょうか。

サトシ・ナカモトは、「我々は、ピア・ツー・ピア・ネットワークを使って、二重支出問題の解決策を提案する。」と書いています。

ピア・ツー・ピアのシステムでは、クレジットカード会社や銀行のような中央機関が取引を認証する必要がありません。サトシ・ナカモトは、中央機関を必要とすることが、初期のデジタル通貨の失敗の原因だと考えました。「多くの人は、1990年代以降に失敗した企業の例を見て、電子通貨は失敗作だと思っていますが、原因は、中央集権的なシステムにあるのです。私は世界で初めて、分散化されたトラストレス(信用できる第三者を必要としない)なシステムを発明しました。」

このトラストレス・システムを実現するために、サトシ・ナカモトは、すべての取引を記録する公開可能な共有台帳を提案しました。彼はそれを "ブロックチェーン "と呼びました。(ビットコインの仕組みについて詳しくはこちら)

当時、サトシ・ナカモトは、大手投資銀行により運営されてきた金融システムの崩壊を目の当たりにしていました。そのため彼にとって、既存の金融システムから独立した、ビットコインの開発は、とりわけ魅力的なアイデアだったことでしょう。

サトシ・ナカモトは、「従来の通貨の根本的な問題は、通貨を機能させるために必要な信頼にある。」と指摘しました。「銀行は、私たちのお金を保持し、電子的に転送するために信頼される必要がありますが、わずかな準備金で信用貸付を行っているのです。」

インターネット商取引の「信頼ベースモデル」では、決済代行業者のような第三者は、仲介者としての役割を果たすことで報酬を得ています。しかし、ビットコインを使えば、そのような仲介者は不要になります。そして2010年には、このアイデアは、暗号技術の分野以外でも注目されるようになりました。

同年の12月、PC World誌の記事で、ウィキリークスが政府の干渉を避けるためのツールとして、ビットコインが開発されたのではないかという記事が掲載されました。しかしそれに対して、サトシ・ナカモトは、「別の文脈で注目されたかった。ウィキリークスはスズメバチの巣を叩いてしまったようだ。そして、その大群は我々に向かってきている。」と、ビットコインフォーラムにコメントしました。

サトシ・ナカモトの正体を探る

ジャーナリスト、ハッカー、諜報機関などが、ビットコインの発明者であるサトシ・ナカモトの身元を探るために、彼が残した痕跡を調査しています。サトシ・ナカモトは個人情報を一切公開していませんでしたが、当時、ピア・ツー・ピア・フォーラムのプロフィールに、当時、日本に住む37歳の男性と書いたことがあります。では、実際のところ、彼はどこから来たのでしょうか。

サトシ・ナカモトは、史上初のビットコインが採掘された、ジェネシス・ブロックのメタデータに、メッセージを残しました。

「The Times  2009年1月3日 銀行救済に二度目の公的資金注入へ」 この文章は、その日のTimes of Londonに掲載された見出しから来ています。

サトシ・ナカモトは、"favor"、"maths"、"flat"(アパートの名前)、"bloody hard "などのイギリス英語的な表現を多用しています。このような情報から、サトシ・ナカモトがビットコインを考案した初期の頃から、発明者は英国出身または英国在住であると考えられてきました。

研究者たちは、サトシ・ナカモトのさまざまなオンライン活動のタイムスタンプを分析し、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトのタイムゾーンを、英国(GMT)、米国東部(EST)、米国太平洋(PST)のいずれかに絞り込みました。

サトシ・ナカモトは一人の人間ではなく、複数のプログラマーで構成されたチームであり、その中にはNSA(米国国家安全保障局)の人間も含まれているのではないかと考えている人もいます。「世界有数のインターネットセキュリティ研究者であるダン・カミンスキーは、2011年に『ニューヨーカー』誌に対して、「彼はC++言語を熟知した世界的なプログラマーです。「彼は経済学、暗号、ピア・ツー・ピアネットワークを理解しています。これはチームで取り組んだのか、それともこの男が天才なのか。」とコメントしました。

サトシ・ナカモトの仮面を剥ぐ

サトシ・ナカモトの正体については、様々な憶測が飛び交っており、その中には奇妙なストーリーが沢山あります。2014年、ニューズウィーク誌は、64歳の引退した物理学者、ドリアン・サトシ・ナカモトという人物が、南カリフォルニア在住のビットコインの生みの親であると大々的に発表しました。しかし、この騒動を知った時のドリアン・サトシ・ナカモトの困惑ぶりを見ると、似ている名前を持っていただけであったことは、明白でした。(この時、サトシ・ナカモトあるいは、彼のログイン情報を持つ誰かが、2014年にビットコインのフォーラムに再登場し、「私はドリアン・ナカモトではない」と宣言した。)

他にも、ラスベガス在住の、マジシャンのような髪型をしたドイツ人の元DJ、ヨルグ・モルトは、「ビットコインの共同創設者」として売り出し、特にビットコインブランドのスパークリングワインを販売していました。オーストラリア人のクレイグ・スティーブン・ライトが、"ビットコインを発明したか、あるいは、自分が発明したと信じさせようと必死になってデマを流しているいう記事も、2019年にWiredに掲載されました。

サトシ・ナカモトかもしれないと言われている最有力候補者が2人存在します。しかしながら、双方ともサトシ・ナカモト本人であることを否定しています。

1人目は、暗号技術のパイオニアであるハル・フィニー(ビットコインの最初のユーザーのひとりであるサイファーパンク)です。彼は2014年にALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くなりましたが、亡くなる直前にも、「自分はサトシ・ナカモトもなければ、ビットコインの発明者の正体も知らない 。」と断言していました。

ALSになったばかりの頃、彼はフォーブス社の記者の質問に視線追跡ソフトを使って、必死に回答しました。

「以前取材してもらった際の、ビットコインに関する個人的見解や、私がビットコイン対して理解に苦しんでいた記録が残っているかと思います。あなた方の中には、私が正体を隠すために、わざと分からないふりをしていたと考える方もいるかもしれません。私はビットコインのコードにいくつかの変更を加えて見ましたが、サトシ・ナカモトのスタイルは、私のものとは全く異なっていることが、判明しました。私はC++と互換性のあるCでプログラミングをしますが、サトシ・ナカモトが使った方法は全く理解できません。」

もう一人のサトシ・ナカモトの有力候補は、コンピュータ科学者でサイファーパンクのニック・サボ(分散型金融アプリを動かすスマートコントラクトのコンセプトの作者で、1998年にビットコインの前身であるBit Goldを開発)ですが、彼も一貫して関与を否定しています。彼の証言を信じる理由は確かに存在します。サボは、ビットコインの世界に実名で積極的に参加をしており、正体を偽る必要は見当たりません。

また、サトシ・ナカモトの正体は、長い闘病生活の末に2011年に自殺した天才暗号技術者レン・ササマンだったのではないかという、推測も根強く残っています。実際、ササマンが自殺する2カ月前に、ビットコインの発明者であるサトシ・ナカモトは、他の開発者に「自分は今後この世からいなくなるだろう」という意味深長な暗号メールを送っていたといいます。

サトシ・ナカモトが匿名を貫く理由

もし本物のサトシ・ナカモトが生きているとしたら、隠れていなければならない理由があります。米国政府は、ドルに対抗する通貨を開発しようとしてきた人物を起訴してきた実績があります。The New Yorker誌が報じたように、FBIは、「米国の公式な貨幣や通貨に対抗する私的な貨幣や通貨システムを作ることは、連邦法違反である」と宣言しています。実際、連邦検察当局は、2007年に、「e-Gold」という新興企業の創業者たちに対して、マネーロンダリングなどの犯罪を明確に防止する仕組みが成り立っていないとして、容疑をかけました。

ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトが生存していれば、地球上で最も裕福な人間になる可能性があります。ビットコインのブロックチェーンはオープンなので、研究者は、サトシ・ナカモトが発明の初期に採掘したビットコインの多くを特定することができます。しかし、サトシ・ナカモトがフィニーのような初期のテスターに数ビットコインを送った時以降、サトシ・ナカモトのコインは送られたり、使われたり、資産化されたりすることはなかったようです。10年以上にわたり、ビットコインの発明者が保有する資産が数百億ドルの価値を持つようになっても、サトシ・ナカモトが稼いだお金はそのまま放置されています。流通していてもおかしくないのに、流通していない、膨大な「失われたコイン」が存在します。

サトシ・ナカモトとは何者なのか。長年にわたってビットコインの生みの親とされてきた人たちの中の一人なのか。名前が挙げられた、候補者のうちの1人なのか。または誰も疑ったことのない人物なのか。そもそもサトシ・ナカモトは生きているのか、死んでいるのか。一人の発明家なのか、チームなのか?年月が経つにつれ、その答えは、永遠に解明されないように思えてきました。

私たちに残されたのは、サトシが作った1兆ドル規模のビットコイン(執筆当時)と、わずかなコミュニケーションの痕跡、そして「贈り物」かもしれません。

サトシ・ナカモトは、2010年のBitcoinTalkのスレッドで、ユーザーが彼のウォレットにアクセスできなくなったことに対して、「自分が保有する”失われたコイン”は、他の人が保有するコイン価値を少しだけ上げるでしょう。みんなへの寄付だと思ってください。」と書いています。

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